過日11月10日に日本舞踊キャラバン青森公演におきまして男性素踊り群舞「風林火山」が上演され、振付を担当させていただきました。大勢のお客様にお喜びいただけたようで大変ありがたい事でした。
私は男性の黒紋付き袴姿が大好きです。子供の頃から父やそのお仲間の先生方が凛々しく美しく力強く、空を切るような鋭さと時間を止めるかのような円やかさの両面を持ち花柳研究会などの舞台で大いに輝いているのを羨ましく憧れ続けて過ごしていました。決して女性には太刀打ちできない男性日本舞踊家ならではの世界。今でもこれに勝るものはないと思っています。その世界にまさか自分が関わることが出来る日が来るなんて夢のようでした。
はじめは一昨年の秋頃に、翌年の協会公演での「風林火山」の振付をとのお話をいただいたのですが、これまで男性素踊り黒紋付き群舞は未経験で自信もなく、ただただ驚いて とても私などには無理です とお断りしました。しかし内心は挑戦してみたい、憧れの世界を自分の手で創ってみたいとの想いは強くありました。ありがたい事に是非やって欲しいと言ってくださる方や、お亡くなりになられた二代目花柳壽應が生前に あの子は振付が出来るから とお話をしてくださっていたらしいこともあって、お任せいただく事になりました。
まず曲を聴き歌詞を読み、甲府に出かけました。高く聳え立つ山々に深い霧がかかり、木々が深く息をしているようでした。その時に見た光景を何双もの銀屏風を重ねて舞台美術としました。国立劇場の舞台機構を生かしたシンプルだけれどもインパクトのある舞台転換を心掛けました。小道具には数種類の50本以上の扇子を使うことにしました。そのうちの武田信玄軍と上杉謙信軍との青と赤の扇子は、父(二代目花柳昌太朗)が以前創った「風の城」の時のもので、先人たちのパワーを引き継がせてもらいたい想いでした。実は花柳研究会でも「風林火山」は上演されており、父もお仲間の先輩方とともに振付の任を担っていました。私が2歳の時ですので記憶はなく残念ながら記録映像も残っていませんでしたが、ある本の中に写真が二枚ありました。一つは大勢の人の中央に二枚の扇子で二人が旗をつくってきまっているもの。もう一つは頭の上で扇子を笠に見立てているものでした。父はどのように創ったのだろうか考え考えましたが答えは出ず、逆に分からないからこそ真似ではないものが出来るのだと気づき、見つけた写真のテイストだけはリスペクトの想いを込めて入れて構成と振りを一から考え始めました。【めざせ花柳研究会】の気合でした。
幸い協力的な出演者とスタッフに恵まれて、12人の男性群舞花柳昌太朗版「風林火山」は大好評を得て無事に幕を降ろしました。その後NHKの『芸能きわみ堂』でも二度にわたり放送され全国の方に喜んでいただけたようでした。
そして今年、キャラバン青森公演で待望の再演となりました。舞台機構も出演人数も違う為、あらたに構成を変えブラッシュアップしました。個性的で魅力あふれる豪華な出演者の皆さんは振付を何倍にも膨らませて作品を大きくしてくださいました。
二度の上演を経て、「風林火山」という曲のスケールの大きさと変化に富んだ巧みな技法、銀屏風と扇子の素晴らしさ、そしてやはり黒紋付きと袴姿の品格と優美さ力強さを再確認しました。
長唄「風林火山」創舞に携われた事は私の一生の宝です。ありがとうございました。
またいつかどこかで上演出来ますように。。。
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